第18話 人生最強のダイエット

糖尿病になり、入院してから2ケ月は全く落ちなかった体重も退院後は朝晩の通勤による徒歩と昼休み弁当を食べた後の徒歩、後輩たちと外食の後の徒歩と、とにかく私は一日歩き続けていた。

私をそこまで歩かせたのは、1997年当時のインスリンの出来の悪かったことにある。

混合型のペンフィルNというインスリンを1日2回朝晩打ち、これをベースに毎食3回の血糖を下げるために即効性のペンフィルRを打つが、運動をせずに簡単には血糖値が下がらなかったことにある。

血糖が下がらないのは恐怖である。

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みるみる体重が落ちた

私たちの1型糖尿病は食後にインスリンを打たないでいると食後2時間後には大体、血糖値が300mg/dlにもなる。時間が解決するのかと言えばそれもない。

健康な人や2型糖尿病の人は多少、血糖が高くなっても時間の経過とともに次の空腹が訪れるまでの時間にだんだん下がって行き正常値に戻っていくものである。

1型糖尿病の場合はそれがない。

例えばインスリンを打たなければ、1食目で300mg/dlになり、時間が経過しても数値はほぼ横ばい、さらに2食目もインスリンを打たずに食事をすれば次の血糖値はまた300mg/dl加算され、600mg/dlにもなり、3食目も打たずにいたら1日で900mg/dl近くにもなってしまう。

高血糖昏睡は体の弱い人だと600mg/dlから起こると言われているので、私たち1型糖尿病の患者はインスリンを打たなければ1日で高血糖昏睡まで達する数値までにあっという間に行ってしまうのだ。

更に1,000mg/dlを超えるとケトン体が血中に増殖し、血液が酸化していき、放置していれば意識障害になり昏睡状態に陥ってしまう。

こうなると色々な合併症が起こり、最終的には死に至る。

何が言いたいかというと、私たち1型糖尿病患者はインスリンを1日中打たないで3食を食べただけで高血糖昏睡に至り、それを何日か放置してしまえば、あっという間に死ぬことが出来てしまう危険な病気と隣り合わせで生きている。

なのでどんなに弱っていても、疲れていても歩き続けなければいけない。

これは本当につらいことだ。

泣いたって、叫んだって血糖は下がってくれないし、許してくれもしない。

自分に血糖を下げてやると言う強い心がなければ、あっという間に転落する。

サラリーマンの仕事では良くあるタイムアップ作戦(放っておけば誰かが助けてくれる)は通じないし、誰も助けてくれないのだ。

それだけのことだ。

体重が急速に落ちた

私が糖尿病で入院した当時の体格は身長182cm、体重は92㎏だった。

一言でいうと、ただのデブだった。

入院約2ケ月であれだけ毎日歩いていたのに退院後の体重は90kgを割ることはなかった。

でもこれだけ1日3食、食べる毎に運動をしていれば、体重は下がって行くのは当たり前だ。

退院から3ヶ月目には86kgになり、6ヶ月後には70kgになった。

毎日毎食歩き始めても、3ケ月はじっくりやらなければ体重は落ち始めなかった。

これでは今までダイエットに成功しなかった訳だ。

最終的に入院時の2ケ月を足すと全日程、8ヶ月で22kgのダイエットに成功した。

だから本気で痩せたかったらスポーツジムに行かなくとも、3度の食事をしたら毎度30分~40分歩けば痩せる。ただし3ヶ月以上続けないとダメだ。

もともとポッチャリ体系の私は、こうして人生最高のダイエットに成功した。

やったー!標準体重に初めてなったー!!

デブの時はダイエットできないからと諦めていたが、自分がダイエットしてデブを脱した瞬間にデブが嫌いになった。

というよりは自分がこれだけ厳しい生活(運動したくないのに毎度歩かなくてはいけない)をしているのに、太っている人って一体何やってるの?という感覚だ。

太っている人は努力が足らん!なんて思っていた。

そんなことからいつの間にか人に厳しい人間になっていた。

22kgも痩せたので服はダブダブ、スーツも私服もすべて買いな直しになったが、人生最強のダイエットに成功したことで糖尿病になり、周囲との溝や軋轢を感じ弱気になっていた私も明るくなった。

というか強気に変わってしまった。

人はこんなことで意識が変わるのかと感じた瞬間だった。

外見が変わると人も変わる

ずっとコンプレックスだった体重が落ちたことで、すっかり開放的になってしまった。

人生でこんなに痩せたこともなかったので嬉しかった。

でもそれは糖尿病という病と引き換えに得たダイエットだったということで微妙だったが、この出来事は私を超積極的にさせた。

健康な時にこうなっていたら、どんなに楽しかっただろうと思うと後悔ひと塩だったが、ここは痩せた自分がどうなのか試したくなった。

ダイエットに成功した女性がオシャレをして街に繰り出していくように・・・

やっと女性のそんな気持ちが分かった。

世の中はインターネットブームの真っ只中、日本でもライブドアの前身であるホリエモンの「オン・ザ・エッヂ」や「ミクシィ」「サイバーエージェント」「ディー・エヌ・エー」などその後の日本を代表するIT企業が生まれてきた超刺激的な時代に入っていく重要なこの時期に私は遊び呆けることになる。

だって糖尿病で一度死にかけ、ダイエットに成功し遊ばなきゃいつ死ぬかわからないと思っていたから・・・今から真剣にビジネス向き合ったって50歳まで生きれるかわからないし、生きていたとしても合併症で不自由な身になっているかもしれない。

そんな気持ちが本当にやりたいことに背を向け、私が遊んでいるうちに時代はITバブルに向かって突き進んで行くことになる。

こうやって私は1980年代後半の土地バブル、2000年初頭までのITバブルと2つのバブルに乗り切れなかった。

そうして今、この記事を書いている時点で私は50歳になった。

今振り返ると、その当時考えていた通りに死んではいないし、合併症も起こっていなかったことは、ある意味、幸福なことなのかもしれない。

人生やり直せるなら、もう一度この頃に戻ってやり直したい。

もっとやり直せるなら1型糖尿病を発症する前に戻って不摂生を直し、健康な体を取り戻したい。

虫が良すぎる話か。。。。

遊びまくった私

ダイエットに成功すると自信に変わる。

しかも一度死にかけて復活した私は、病院で告白し、玉砕した山口さんのこともすっかり忘れ、まるでそれに復讐するか何かに恨みを晴らすように遊びまくった。

それは1型糖尿病になって誰も理解して貰えないストレスでヤケを起こしていたからかも知れない。

女性との出会いはナンパ、合コン、お見合いパーティー、電話クラブ(テ○クラ)、ネット出会い系(スマホなどは当時は形すらなかった)などなど女性に関わることは何でもやった。

ナンパはダイエットに成功したとは言え、特段イケメンでない私はあまりうまくいかなかったが、それ以外はすべてうまくいった。

でも一夜の恋も含めると打率は8割を超えていた。

何故うまくいったかというと、一度死にかけて失うものがなかったし、何かに弾けたようにしゃべりのテンションが異常に高く女性受けが良かったことだ。

外見がイケメンでないなら武器は言葉とテンションに頼ることになる。

それと狙っていたマーケットを考えるとナンパは女性が出会いを求めていないのにいきなり声をかけられるので心の準備が出来ていないが、それ以外は女性が自ら出会いを求めているからだ。

女性の意識のスタートが違うと結果も違う。

でも、女性とうまくいったからと言って私の場合、長続きはしなかった。

何故かというと私が糖尿病だからだ。

私は1型糖尿病という爆弾を抱えていた。

そんなことはわかっていたが、もともと壊れてしまった体、やけっぱちで特攻していたが、いざ付き合う段階では病気のことを何処かで告白しなければならない。

生々しい話になってしまうが、付き合う前に言うか、肉体関係を作ってしまってから告白するのか、様々なパターンを試してみた。

現実の結果はどちらのパターンもNGだった。

付き合う前に告白するのはNGなのは理解できるとして肉体関係を持った後なら多少の情もあるしNGにはならないと思っていたが、結果は惨敗。

やはり通常の2型糖尿病(一般的に成人病と言われる)くらいなら誰でもなる可能性あるねーとかお父さんもなってるみたいだしと軽く受け流せる傾向があるが「俺、糖尿病でインスリン打ってるんだ。」と言って注射器を見せようものなら100%引かれる。

誰も将来が見えない相手と苦労はしたくないからだ。

逆に自分がその立場だったら、そう考えるに決まってる。

だからその後は決まって音信不通になるか、後日電話で断られるかのどちらかだった。

そうなる事がわかってくると相手が結婚していようがいまいが関係なく、やけっぱちで一夜の恋に没頭していくことになる。

その頃の私は「相手とトラブルになるなら結構!むしろトラブルにでもなって俺のことを刺すなら刺してみろ!!楽に死ねる!!!」という自暴自棄の心の荒んだ精神状態になっていった。

結果的にはトラブルは一度もなかったが・・・迷走の始まりである。

飲酒をすると○○○になる

女性と遊ぶということは、食事や飲酒をするのが自然だ。

通常の健康な人ならば、何も意識することはないことも、私たち1型糖尿病は食事や飲酒は違う視点で考えなければならない。

何が違うかといえば、食事後はインスリン注射を打たなければいけないからだ。

病気のことを何も知らない女性と一緒にいる場合、トイレに注射を打ちに行くのも一苦労だ。

何故かと言うと女性といるときは席について、料理が来る間は会話を楽しまなければいけないし、会話が弾んだら弾んだで、なかなか離席するチャンスは訪れない。

仮にトイレに行くチャンスが訪れたとしてもインスリン注射の入ったポーチだけをカバンなどから出すのはすごく不自然な行為なのだ。

大きなカバンから出すときは、目立つしトイレに行くだけなのに大きなカバンを持って行くのは、そもそも不自然。

それか待っている女性が気を使ってくれて、ここで見てるからカバン置いてっていいよと言われればカバンを置いていかねばならず、注射器を取り出すことはできない。

そう言いながらポーチを出した瞬間に「それ何?」と聞かれることになる。

女性がいるときは、いかに流暢に話しながら、相手に気づかれずインスリンの入ったポーチを取り出すのはなかなかテクニックのいる作業なのだ。

食後は血糖値がぐんぐんと上がっていく恐怖や血糖値が上がった不快感で、注射が打てないと会話どころではなくソワソワしてくる。

私の感覚では血糖値180mg/dlまでは判別が難しいが、200mg/dlを超えると頭がボーっとしてきてだるくなり、睡眠をとっていても眠くなってきたりする。

要は会話に集中できなくなってくるのだ。

ちなみに200mg/dlを超えの血糖値は、ほぼ8割以上の確率で判別できるようになっている。

2割はたまに外す事もあるということだ。

じゃあ高血糖にならないようにするにはどうするか。

食前に打つという手もあるが、食事が出来上がってくるのを待つ間に低血糖になってしまう可能性もあるので食後のほうが安全なのだ。

ある時、注射器を忘れた時にそれは起った

誰でも忘れ物をするが、私たち糖尿病患者にとって忘れてはならない物、それはインスリン注射だ。

これを忘れてしまうと1日中、精神的ダメージを受けるし、気分が相当ブルーになる。

何故なら、インスリン注射を持っていないと食事ができないからだ。

糖尿病と言う病気を患っていても、食欲は普通にあるので楽しみが半減だ。

先程も説明したが、私たち1型糖尿病患者はインスリンを1日打たずに3度の食事を普通にとっているとザックリ、1日で900mg/dl付近に達してしまう。

インスリン注射を持っていくのを忘れた日は、注射器のある所に戻るまで食事を取ることは諦めなければならばならない。

ある日、私は連日忙しく疲れ切っていて、だるくて朝食を抜いてしまった。

食事をしたらインスリン注射を打つ習慣になっている私としては、食事を抜いたことで注射を打つという発想にならなかったため、うっかり注射器を忘れてしまった。

気づいたのは通勤途中の駅、ふと「あれ?俺今日注射打ったっけ!?」と思い出したら朝食を食べてないので打つ訳がない。

カバンの中を見回しても注射器のポーチが見当たらない。

親に電話して注射器があるかどうか確認をして「あったよ!駅まで持っていこうか?」と言うが待っていても会社に遅刻するだけなので、今日は1日食事をしないことに決め、会社に向かった。

今日は同僚の送別会だった

不幸は続くものである。

会社に到着してすっかり忘れていたが、今日は夕方から同僚の送別会が行われる予定だった。

私は、退院して社会復帰してから一度もお酒を飲んでいなかったが、送別会などは断ることが出来ず、お酒も飲まず、血糖値が上がる要因の炭水化物も余り摂らず、つまみとお茶だけで飲み会参加するパターンになっていたが今日はインスリン注射器さえ忘れた。

注射器を忘れ、食べることも出来ないので早く帰りたかったが渋々、送別会に参加した。

飲み会が始まってもサラダしか食べず、暫くお茶を飲んでやり過ごしていたが、宴もたけなわになり、同僚がビール瓶を持って私の席にやって来た。

「ちょっとは飲めるようになったんだっけ?」と聞きながら同僚はビールを差し出した。

さすがにこの雰囲気でお酌を断るのも男が廃る、ちょっと舐める程度でいいからお酌してもらったが、今日一日満足に食べていなかったので、ビール1杯分の炭水化物くらいなら何とか大丈夫か?と思い久々に飲んでみることにした。

久々の飲酒・・・ウマい!!途端に開放的になってしまった。

1杯飲んだらもうやめられない。やめられない。

気が付いたらもう、普通に飲んでしまった。

やっぱり飲むのって楽しい!もうブレーキが効かずパスタ、しめのお茶漬けまで食べてしまった。

久々にベロンベロンに酔っぱらった私は、1時間半かけて帰路に就いた。

もちろん自宅までの最寄駅からはいつも通り、徒歩で帰った。

飲んでから2時間経過すると少し冷静になって来た。

今日の血糖値はいくつまで上がったんだろ?マズイなと思いながら家に帰った。

恐る恐る血統を測った。

結果は・・・76mg/dl???

え!?あんなに食べたのに・・・???

まさかアルコールを飲むと血糖値って下がるの?そう考えると、また今度飲みに行きたくなった。

注射器を忘れたことは偶然の産物とは言え、少し希望の光が差してきた。

また注射打たずに飲み会に行ってみよ!!

私はそんなことを考えていた。

【つづく】

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