第15話 社会と深まる溝

仕事に復帰した私は、初日で糖尿病だけでなく、健康でないということは人々の好奇の目にさらされ興味の対象になることがわかって腐っていた。

正直、もう会社になんて行きたくなくなっていた。

いや、それよりも、出来るなら家に引きこもり外に出たくないと思った。

もっと言えば、ゲームのように人生リセット出来ないかなどと良からぬことをずっと考えていた。

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病気になると違う景色が見えてくる

本来、健康な人だったら高い志があり、高い山を目指せば目指すほど厳しいが、その山を登り切った後は、今までとは全く違うレベルの景色が見えてきて成長が実感できる。

病気になるとこの逆、高い山には登れなくなり目指すものが無くなり、志も低くなる。

だから見える景色も底辺だ。

健康第一、健康はお金では買えないとはよく言ったものだ。

社会復帰してきて一番感じたことは健康だった。

病気になると諦めなくてはならない事ばかりだ。

例えば、ザックリ言って下記のようなものだ。

 ①恋愛(結婚)

 ②就職(転職)

 ③就業(残業規制)

 ④飲食(食事制限など)

 ⑤金融(住宅ローンや新規借り入れ)

 ⑥保険(新規加入)

健康な人は、考えたことがないだろう。

私が糖尿病になってからこれらが全てダメにあるとは思っていなかった。

①の恋愛は病気になって、担当の先生から諦めなと言われたのですぐ気づいたけど、②就職以降はその後経験しながら学んでいくことになる。

では何故ダメなのかを説明していこうと思う。

病気になったら諦めなくてはならないもの

①恋愛(結婚)

これに異論のある人はいないだろう。

男女ともお互いのパートナーに健康に問題がある人と付き合いたいと思う人はいないだろう。

余程、奇特な人や奉仕の心に満ちた人でないと、第一段階で病気だと聞いて受け入れる人はいないだろう。(少なくても私の経験上ほぼ皆無)

あったとしたら今の嫁さんだけか。

なので今の嫁さんには第一段階では病気の事は話していない。

病気の事を告白したのはずいぶん先になってからの話だ。(この話はおいおい話していこうと思う)

良く結婚してくれたと思う。

今の嫁さんに感謝!

②就職(転職)

就職の可能性はゼロとは言わないが、仮に就職の面接で「私、病気を抱えてます。1型糖尿病でインスリンを打たないと生きて行けないのです」と例えば告知したとしたらどうだろうか?

その時点でアウトではないか。

私が面接官なら、そんなキーワードを聞いた瞬間、100%間違いなく落とす。

誰も健康に問題を抱えている人なんて雇いたくないからだ。

ちなみに私はその後、転職することになるが社会復帰するまで気づかなかった。

③就業(残業規制)

健康でないと就業もおぼつかなくなるし、ましてや残業なんかもっと出来ない。

私が病気になった97年に勤務していた会社は50名程度の零細企業。

組合もなく、勤務状況を見ても誰が多くハードに働いているかなんてノーチェック、今でいうブラック企業のようなものだ。

逆に言えば、管理されていなかったから1型糖尿病の私でも働き放題、残業し放題だったと思う。

その当時は苦しかったが、今では自分のスキルアップの素地だったと感謝している。

そこそこの規模の大きさなら労働時間40H以上になると産業医の面接が必要になり、健康診断の結果、血糖値でひっかかり「糖尿病」と診断された段階で要観察。

Hba1c(ヘモグロビンエーワンシーと読む)が8.0%以上超えたら、産業医から就業規制がかかる。

こうなってしまえば、産業医の管理下に置かれ、働きたくても働けない状態に陥る。

④飲食(食事制限など)

これは糖尿病になったら永遠の課題だ。

まず糖質の多い炭水化物は極度に制限される。

ましてやスイーツ食べ放題なんて自殺行為だ。

それと健康男子だったら食べがちな、麺類+ごはんの定食類は大敵だ。

食べたらインスリンを打たなければいけない1型糖尿病の私は、この炭水化物の摂取量でインスリンの量を判断しなければならない。

でも食べたかったら、精神衛生上食べたらいい。

食べれないことによる劣等感やストレスにさいなまれるのであれば食べた方が良いと私は思う。

(自分の人生だし)

対処はいつもより多くインスリンを打つだけ。

それで、低血糖になったら糖分を補充してやればよい。

これだけの事だ。

私の場合、アルコールは1型糖尿病になった今でもかなり嗜む方だ。

でも病気になった当初は、本当に真面目に半年はアルコールを舐めもせず、一切飲まなかった。

現在は、飲めない体質の人以上に飲んでいる。

私が糖尿病になったばかりの97年は今ほどインターネットにより情報が溢れかえっておらず、スマホもなかったので情報に疎かった。

入院していた頃は、オヤジ共がまことしやかに「ビールはダメだが、蒸留酒である焼酎は大丈夫」とか何を根拠に言っているのかわからない話があった。

医者に言ったら眉をひそめる話だと思うが、結局何を飲んでも良いと思っている。

自分でインスリンを打って適切に対処できればよいのだ。

⑤金融(住宅ローンや新規借り入れ)

これも健康な時は知らなかった。

それなりのローンを組む時は「健康状態の告知義務がある」これに引っかかるとお金が借りれない。

私は病気になってすぐに「もう会社にすがって生きるのはやめよう!自分の生きたいように生きるのだ」と一念発起して会社を起業しようと考え、独立起業した友達に「俺会社やりたい!」って相談したら、「お前みたいな重病患者に貸す金融機関はねえよ!」とはっきり言われた。

確かに糖尿病になったとしたら世間一般の認識では「血管がボロボロ」「壊死して足を切断」「失明する」「腎臓がボロボロになり、人工透析になる」くらいの知識なのでは無いだろうか。

ハズレてはいないけど、これは偏見。

だってそれは、きちんと血糖管理をしていない人の話。

でもお金を貸す側としてはこれをリスクと見る。

本当は多重債務者に金を貸すより、しっかり健康管理して真面目に返済する糖尿病患者の方がよっぽど貸し倒れリスクが少ないと思いますけどね。

なので糖尿病患者は家すら買えないのだ。

⑥保険(新規加入)

これも酷い。

健康な時は、全く意識していなかったから1型糖尿病になり、入院保険を保険会社に請求したら「今後、新規に別の保険に加入できなくなります」とはっきり言われた。

なので私は病気になる直前に職場に回って来た保険屋のお姉さんに騙された貯蓄型の保険に入らされ、以後20年も切り替えられず、ずっと同じ保険に入り続けている。

(何故55歳までは死亡2千万、55歳過ぎは死亡100万、この差は何?)

私は今の会社で、転勤を繰り返しているが、その度に保険のエリア担当が変わる。

タチが悪いのはエリア担当が新任のご挨拶と称して訪問してきた際に必ず持ってくる「ライフプランシート(保険切替の提案書)」だ。

必ず説明の途中に「俺、糖尿病なんすけど入れるの?それ・・・」と聞くとみんな「失礼しました!それは無理ですね!!」と言ってくる。

ハッキリ言って毎回説明するのも面倒だし、周囲に聞かれるのも恥ずかしい話を通路や共通スペースで平気でしてくる保険会社は超失礼だ!!

ふざけんなぁー!バカヤロウ!!

引継ぎとかないのかねーと本当に思う。

この情報社会に顧客情報見ない奴なんているのか、管理してないのか、入る奴は健康状態の告知義務を押し付けてくるのに入った後は管理がユルユルって信じられない。

今は告知御義務があっても条件を緩めた保険とかあるけど、この件があってから保険屋は信じられないし、あてにしないようにしています。

足を切ったり、目が見えなくなったり、人工透析になったり、明るい未来が見通せない僕ら糖尿病患者には保険すら冷たい。

健康保険が好きな人は、健康なうちに良い条件の保険に入っておいた方が良いですよ!

いつ病気になるかなんてわからないから。

以上、病気になると諦めることでした!!

健康な人と病気になった私では埋まらない溝

これは、退院後一番悩んだことだった。

前話でも話したが、職場の上司、同僚は私の事を全く分かっていなかった。

私が思っている以上に私に対して興味がないことが分かったからだ。

人々は「病気になって可哀想」とか「俺はあんな病気になりたかない」とか、そんな心で接してくるからだ。

彼らは職場の同僚なだけであり、本当の友人では無いのだ。

唯一わかってくれるのは、親兄弟と利害関係のない友人たちだけだ。

退院し、職場復帰したばかりの私はこのことが分からず、糖尿病とはこんな病気、でも管理していれば天寿を全うできることなど相手に説明することばかりを考えていた。

でも仲良くしていた職場の先輩にハッキリ言われ目が覚めた。

「お前のことはわかってやれない!でも今まで通り接したいからもうイイんだよー」

確かにそうだ。

その時から私は、他人に自分の病気(1型糖尿病)であることを説明するのをやめた。

その方が、お互いのために良いと思った。

病気になったら気弱になる、不安な気持ち、誰かに相談して自分の心を満たしたいと一歩的に考えがちになるが、健康な人と健康じゃない人には大きな溝がある。

これは何時間、何千回説明しても理解できないし、埋まらない溝だ。

だから、自分で長い時間をかけて消化し前向きに生きていくしかないのだ。

【つづく】

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